1. アンゾフの成長マトリクスとは
アンゾフの成長マトリクス(Ansoff Matrix)は、事業の成長戦略を「製品」と「市場」という2軸で整理するフレームワークです。
ロシア系アメリカ人経済学者イゴール・アンゾフ(Igor Ansoff)が1957年に提唱しました。
このフレームワークでは、企業が成長を目指す際に取れる戦略を、以下の4つに分類します:
- 市場浸透(既存市場 × 既存製品)
- 製品開発(既存市場 × 新製品)
- 市場開拓(新市場 × 既存製品)
- 多角化(新市場 × 新製品)
成長に向けた方向性を構造的に示し、「どこに注力すべきか」を明確にできるのがアンゾフ・マトリクスの強みです。
2. マトリクスの4象限と戦略分類
| 既存市場 | 新市場 | |
| 既存製品 | 市場浸透 | 市場開拓 |
| 新製品 | 製品開発 | 多角化 |
● 市場浸透(Market Penetration)
現行市場で既存製品のシェアを高める戦略。競合の顧客を奪う、リピート購入を促す、販促強化などが中心。
例:コカ・コーラがキャンペーンや広告で購買を増やす
● 製品開発(Product Development)
既存の顧客に対して新しい製品を開発・投入する戦略。
例:Appleが既存ユーザー向けに新型AirPodsを発売
● 市場開拓(Market Development)
既存製品を新しい市場(地域、セグメント、チャネル)へ展開する戦略。
例:ユニクロが東南アジア市場へ進出
● 多角化(Diversification)
新しい市場に向けて新製品を投入する、最もリスクの高い成長戦略。
例:トヨタがロボティクスや航空分野へ事業拡大
3.各戦略の目的と実践手法
| 戦略 | 主な目的 | 実践例 |
| 市場浸透 | 顧客数の増加・シェア拡大 | 割引施策、広告強化、流通拡大 |
| 製品開発 | 顧客単価の上昇・満足度向上 | 新ラインアップ、改良商品投入 |
| 市場開拓 | 地理的・層的な顧客拡大 | 海外展開、業種転換、BtoC→BtoB転換 |
| 多角化 | 新収益源の獲得・リスク分散 | 新規事業参入、M&A、技術転用 |
4. マトリクスの使い方と戦略立案ステップ
- 現状の製品と市場を棚卸し
→ 製品リスト、販売チャネル、顧客層などを整理。 - 成長機会を洗い出して分類
→ 新しい市場や製品の可能性をマッピング。 - 各戦略ごとのリスク・費用・効果を評価
→ 多角化はリスクが高いため慎重に。 - 優先順位をつけて戦略を策定
→ 短期的には市場浸透、長期的には製品開発や市場開拓を検討。
5. どんな場面で使うか?
- 中期経営計画や成長戦略の策定時
- 既存市場の飽和による次の一手を検討したいとき
- 新規事業や海外進出を判断するタイミング
- M&Aや提携の目的整理(多角化・市場開拓)
6. アンゾフ・マトリクスのメリットと戦略的意義
- ✅ 視覚的に戦略の方向性を整理できる
- ✅ リスクとリターンを構造的に比較可能
- ✅ 成長の“余白”を定量・定性で見極めやすい
- ✅ BtoB・BtoC問わず使える汎用性の高さ
7. 活用時の注意点と落とし穴
- ⚠ 単純な四象限に頼りすぎると実行力に欠ける
- ⚠ 多角化=悪ではなく、“なぜ”やるかの戦略的理由が必要
- ⚠ 新市場=地理だけではない(新業種、新チャネルも含む)
- ⚠ 同時に複数の戦略を展開する際は、資源分散に注意
8.他のフレームワークとの連携・比較
| フレームワーク | 主な役割 | アンゾフとの関係性 |
| BCGマトリクス | 事業ポートフォリオ管理 | どの事業に成長戦略を適用すべきか分析 |
| SWOT分析 | 内外部環境の強み・弱みを分析 | 機会(O)に対してどの成長戦略かを判断 |
| VPC(価値提案) | 顧客にとっての価値設計 | 製品開発戦略における着眼点になる |
| スリー・ホライズン・モデル | 短・中・長期での成長戦略構想 | タイムラインを補完できる |
9. 有名企業の事例で理解するアンゾフ戦略
● Netflix
- 市場浸透:米国内でのユーザー拡大
- 製品開発:オリジナルコンテンツ(Netflix Originals)投入
- 市場開拓:ヨーロッパ・アジアへの進出
- 多角化:ゲーム配信事業への参入
● Amazon
- 市場浸透:Prime会員での囲い込み
- 製品開発:Kindle、Echoなど独自デバイス
- 市場開拓:インドや中東市場へ進出
- 多角化:AWS(クラウド事業)でIT業界へ
アンゾフの成長マトリクスは、戦略を「製品 × 市場」の2軸で分類し、組織が進むべき道をシンプルに、かつ論理的に導き出せる優れたフレームワークです。
目の前の市場が飽和していると感じたとき、あるいは新しい挑戦を模索したいとき、本フレームワークは方向性のヒントを与えてくれます。
